「え〜〜っ!?
 ディズィーの誕生日って、12月25日なの?本当にホント?」

メイに大声を上げられて、ディズィーは思わずたじろいでしまった。

「いえ、だから、お父さんとお母さんが私を見つけてくれた日っていうだけで・・・・・・」

「いいのいいの、みんなそんなもんなんだからッ!
 ねぇ、みんなぁ〜〜っ!聞いてぇ!!ディズィーの誕生日って〜」

メイはどたどたと部屋の外へ駆け出していく。
ディズィーとエイプリルはそれを半ば呆れ顔で見送った。

「私の誕生日、何か、変なんですか?」

恐る恐るたずねるディズィーに、エイプリルはくすりと笑う。

「違うよ。12月25日ってね、何でも、聖戦前のお祭の日かなんからしくて。
 世間的には、みんなでプレゼント交換したりとかして騒ぐものらしいんだけど。」

「なのにねっ!ジョニーッたら
 『毎月誰かの誕生日だとか何とかで騒いでんじゃないか。
  いるか分からない神様あがめなくても、お前達にはオレがいるだろぉ〜。12月くらいおとなしくしてろぉ』
 とか言ってケチるんだよ!ボクたちだって七面鳥食べてみたいのに!」

瞬く間に戻ってきたメイが、ジョニーの口真似を交えて付け加える。

「もう少し落ち着きなさいよアンタッ。
 ま、そう言うわけだから、今年からはディズィーの誕生日ってことで、クリスマスは楽しめそうだね!」

「そう、ですか。」

嬉しそうなメイとエイプリルを前にして、ディズィーはきょとんとするしかなかった。





Holy night





ジョニーが渋顔でディズィーの誕生日会兼クリスマスパーティを開くことを了承して数日後。

「でも、ここ来て初めての誕生日なんだし、なにか気張ったプレゼントあげたいよねぇ。」

メイは、エイプリルとデッキでディズィーの誕生日について計画していた。

「うーん、何あげようか。
 ディズィー、何がほしいかなあ。」

「ディズィー、無欲って言うか、何かほしがったりとかしないしなぁ。」

メイとエイプリルは、顔を見合わせてうーんと唸る。

「メイだったら、何が欲しい?」
「そりゃ勿論!じょにぃ!!」

うきうきと即答するメイに、エイプリルは、ハイハイ、と返事をして流す。
だが、メイは何かに気がついたようにはっと顔を上げる。

「そうだ!
 それだよ!エイプリル!!」

「?何が?どしたの、メイ?」





「ねぇ〜〜ん、旦那ぁ、頼むよぉ〜〜〜〜」

「・・・・・・」

男が二人、人気無い郊外の道を歩いていた。
いかにも旅人然としてぼろぼろのマントを纏って先に立つ男、ソルに比べて、あとに付いている男、アクセルはまるで洗濯物を取りに外へ出たのかのような薄着で、この寒空の下、腕で自分を抱えて少し震えながら歩いている。

「俺様金もなーい、服もなーいで、も〜〜〜懐も身も心もサブサブなのよー。
 ほんと、ほんっとちょっとでいいから飯か金 恵んでよぉー。いや、勿論、ちゃんと返すからさぁ。」

「・・・・・・」

アクセルがいくら話し掛けても、ソルは何も聞こえないかのようにスタスタと歩いていく。

「ねぇ旦那。旦那ッたら聞いてる?」

業を煮やしたアクセルにマントを引っ張られて、ようやくソルが足を止める。

「・・・・・・うるせぇ。」

並みの人間ならそれを聞いただけで逃げ出しそうなドスの聞いた声にも、さすがに慣れているアクセルは物怖じせずに言葉を続ける。

「そんなつれないこと言わないでさぁ。オレ様ほかに頼れる人いないんだってば。知ってるっしょォ?頼むよぉ、旦那ぁ〜」

アクセルはマントから手を離すと、ソルを拝むように手を合わせる。

「・・・・・・何でオレが」

鬱陶しそうにそう言うと、ソルはまたずかずかと歩き始める。

「だーーって、俺様移ってきたら大体旦那近くにいるんだもん〜
 ねぇマジで、マジで今回ばかりは俺様死にそうなんだってば、ねぇ〜〜〜」

今度は両腕でマントにすがられ、ソルは苛立たしげに振り返る。

「勝手に死んで――」

 ぐぅぅぅぅぅぅ

ろ、とソルが言い終えるより先に、空腹を訴える音があたりに響く。
それは、先ほどからひもじいひもじいいと訴えてきたアクセルの腹ではなく、ソルの腹のほうから出たものだった。

「――悪かったっスよ。・・・・・・もう、何も言わない。」

事情を察したのか、アクセルは今にも泣きそうな表情をしながらもソルから目をそらす。

「・・・・・・まあ、今日みたいな日に街に出るとウゼェからな・・・・・・」

さしものソルもさすがに少しバツの悪そうな顔をしてボソリとそう言った。

「へ?今日なんかある日?つか、いま何年何月何日?」

問いただすアクセルに対して、ソルは沿道の脇に立つ道案内の札を顎でさす。
そこには近隣の住人が飾りつけたのであろう、緑のリースがぶら下がっていた。

「あれ、もしかしてクリスマス?
 あ、ねぇねぇ、旦那ぁ、だったらなおさら何かおごってよぉ。俺様さぁ・・・・・」
「みぃーーーーっつけたぁあ!!」

アクセルの言葉は、元気のいい少女の声に遮られた。

「さっすがエイプリル。出現ポイントの絞込みばっちりすぎぃ!」
「あったり前でしょ。私を誰だと思ってるのよ。」

目の前で手を叩いて喜び合う少女二人に、ソルとアクセルの歩が止まる。

「あれ、メイちゃん?俺様になんか用?」

嬉しそうに近づくアクセルをすっと避けると、メイは自分より一回りも二回りも大きい錨を、すっとソルに向けて掲げる。

「ううん。・・・・・・ソルさんに用があってきたの。」

「・・・・・・」

あからさまに好戦的な視線をぶつけられて、ソルの剣幕もけわしくなる。

「ソルさん、ボクらにつきあってくれないかな。ちょっと船まで来てほしいんだけど。
 ・・・・・・お客サンとして。ご飯も出すよ。」

そう言いながらも、メイはすでに臨戦体制に入っていた。
あまり深い付き合いはないけれど、それでもメイはこの男がほいほいとこちらの言うことに従うようなタイプではないことは知っている。

「マジで?ね、ね、旦那、ご飯おごってくれるって!」

嬉しそうなアクセルを無視して、ソルはメイをにらみつける。

「断る、といったら?」

「言うと思った。
 腕ずくでも、ついてきてもらうよ!最初ッから、そのつもりなんだからっ!!」

言いながら、メイは錨を振り上げて容赦なくソルに向けて叩き下ろす。

「チッ」

ソルは面倒くさそうにそれを後ろへ避ける。

「覚悟は出来てんだろうな?」

「そのつもりだって言ってるでしょ。・・・・・・子供だと思わないほうがいいよ?」

両者の視線がショートして、バトルが始まった。



「あーあー、メイちゃんも無茶するなぁ・・・・・・」

アクセルは寒さに凍えながらも、割とのんびりとその戦いを見ていた。
というのも、ソルは先ほどから防戦一方、と言うよりやる気なく避けるばかりで攻撃の意思はなさそうだったからである。

(旦那も腹へって動きたくないんだろうなぁ。
 いや、あの人のことだから寒くて手を外套から出すのがイヤとかかもしんネ)

そんなことを考える。

「なぁ、エイプリルちゃん、だっけ?
 メイちゃん何でまた急に旦那に言い寄っちゃったりしてんの?」

話し掛けられて、同じく離れてバトルを見ていたエイプリルがアクセルのほうへ視線を移す。アクセルからすれば羽織っているコートがうらやましくて仕方ない。

「いや、ディズィーの誕生日会にお招きしようってことになったんで。
 クリスマスパーティをかねて盛大にやるのに、他のみんなとは違うプレゼントをあげようと張り切ってるんですよ、メイは。」

「あ、やっぱ今日クリスマスなんだ。
 ねぇねぇ、エイプリルちゃん、オレ様も12月25日が誕生日なんだよぉ。ついでにオレも祝ってくんない?
 腹へって死にそうなんだよね、今。」

エイプリルは、へぇ、と返事をする。
少し考えてから、ニヤッと笑うと口を開く。

「いいですよ。リープサンもたくさんお料理作るって言ってましたし、一人くらい増えても大丈夫だと思いますから。」

「まじぃ?ありがとぉ、エイプリルちゃぁん♪」

両手を広げて迫ってくるアクセルを避けると、エイプリルはまだ追いかけっこを続けているソルとメイを指差す。

「だから、手伝ってくださいよ、あれ」



「はー、はー、はー、はー。
 もぉぉっ、戦る気あんのぉ?」

「・・・・・・そろそろあきらめろ。」

豪快に錨を振り回しつづけてきたメイと、最小限の動きでそれを避けつづけてきたソルとで、だんだん体力消費量の差が明確になり始めていた。
肩で息をしながら、それでもなおメイはソルに挑もうとする。

「・・・チッ」

単調に振り回される錨を避けて後方に飛んだ、その時。

 ジャラジャラジャラジャラジャラ

「!?」

空中で何かに足を取られてソルがバランスを崩す。
足に巻きついているのは、おそらくはアクセルの放った、鎖鎌。
ソルがそれに気をとられている一瞬を、メイは見逃さなかった。

「今だ!ヤ マ ダ さ ぁ ぁ ぁ ぁ ん !!」

はっと顔を上げたソルの視界がピンクに染まる。

 どごぉぉぉぉん

真正面から頭を打って、ソルがわずかに立ちくらんだ隙に、アクセルがここぞとばかりに鎖で縛り上げる。

「・・・・・ッ・・・・・・テメッ!!」

「よっしゃ、メシ取ったりぃ」
「アクセルさんナイス!」

メイがびっと親指を立てると、アクセルもそれに応じて親指を立てる。

「それでは」

メイとエイプリルがにっこりと顔を見合わせる。

「「ジェリーフィッシュへ、ごあんなぁ〜〜いっ」」

「やったぁ、飯だぁぁ!」

「はぁなぁせぇ!!」


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